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Illustration & Story「飛梅」

Illustration & Story「飛梅」

飛梅(2022)
飛梅(2022)
【飛梅(Tobiume)】
 
[解説]
平安時代(901年)、
時の貴族菅原道真(すがわらのみちざね)は
藤原時平(ふじわらのときひら)との
朝廷内における政争に敗れ、
遠く九州は太宰府へと左遷されることに。
この時、道真は心より愛でていた
屋敷の庭木たちとの別れを惜しみ、
梅の木の前で詩を詠んだ。
 
「東風(こち)吹かば 
にほいおこせよ 梅の花 
あるじなしとて 春なわすれそ」

(春風が吹いたらお前の香りを(太宰府まで)
送っておくれ、梅の花よ。
主人が居なくなっても
春の訪れを忘れてはならないよ。)
 
道真を慕う庭木たちの多くは
悲しみのあまり枯れ果てるも、
梅と松は道真への想い一層強く、
ついには空を飛んで後を追う。
しかし松は途中で力つき、
現在の神戸市須磨区板宿町あたりに降りて
根を張った。
ただひとり残った梅のみが、
一夜のうちに見事太宰府までたどり着き、
その地に降り立ったといわれている。
 
1000年以上経った現在も
福岡県の太宰府天満宮境内では、
その飛梅が毎年美しい花で
春の訪れを知らせてくれている。

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[Story] 
 
アンドリアス・ヴォイニッチは確信していた。
この老木は何かしら明確な意志の宿る
固有のシグナルを発している、と。
 
ギリシア神話の
木の精霊ニュムペー(ドリアード)…
時として美しい男性や少年の前に美女の姿で現れ、
誘惑して木の中に引きずり込むという、
木に宿る妖(あやかし)の
そんな言い伝えが脳裏を過ぎる。
が、
この歳経た木と初めて対面した時に感じたものは
そのような妖艶かつ刹那的な妖しさではなく、
もっと凛とした静かで確固たる想いの強さであった。
そのインスピレーションの正体を探るために、
彼は再びここを訪れたのだ。
  
用意してきた装置を傍に一つ大きく息を吸い込み、
ヴォイニッチは白梅の前に座り込んだ。

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