【ゆき帖】(わたしのマチオモイ帖 出展作品)(2017年)
5歳の時に引っ越してきた山奥の小さな住宅地には、造成途中で放置された山が隣接していた。
どのくらい放置されていたのか、そこには風雨により大人の背丈程もある深い溝が幾筋も、巨大な樹木の枯れ枝のように地表を走っていた。
土砂崩れで出来た崖を転がり降りると鬱蒼とした森の入り口にたどり着いた。 雨が降るとそこらじゅうが湿地となり、様々な水生生物が住み着いた。
大人の姿をほとんど見かけることのないこの山は、何年にもわたって僕たち子供の好奇心、冒険心を満たしてくれた。
だけどしばらくすると少し離れた所に大きな住宅地が出来て、僕の近所に新たな子供が引っ越してくることもなくなった。
そして年上の子供は中学生になると同時に山では遊ばなくなっていった。テレビゲームの流行も山で遊ぶ子供をひょっとしたら減らしていったのかもしれない。
とにかく僕が小学校の高学年になる頃には、僕はその山の主のような気分になっていた。
僕だけが、いつまでも、一人でも、その山で遊んでいた。
風の音も黄昏の空の色も泥の感触も草木の匂いも家での安らぎも、放置され荒れ果てていたあの山が、幼い僕に全て感じさせてくれていた。
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